古楽音楽会「19世紀ギターとその音楽」が4月14日~16日、国登録有形文化財でもある旧足立邸(葉山町堀内牛ヶ谷)で行われた。
武井守成さんの19世紀ギターを手にする長谷川さんと足立正さんの孫の一人で、武井さんの孫でもある礼子さん
3日間計5回開かれた音楽会はギタリスト長谷川郁夫さんが19世紀の6単弦ギター、たて琴型のリラギター、丸い胴を持った20世紀初頭のリュートギターの時代背景や楽器を紹介しながら、イギリスのバラッドやアイルランド民謡「庭の千草」などを演奏した。
後半には、建物のオーナー、柴田結さんとの共同主催者で古楽家の辻康介さんが長谷川さんの伴奏で「埴生の宿」などの歌を披露。食堂と応接間を会場に各回15人ほどが鑑賞後、建物内を見学した。
会場となった建物は古楽器と同じ19世紀・中世以降のイギリスで多用されていた建築様式を取り入れて建てられ、室内は柴田さんが扱うアンティーク家具や装飾品が置かれた。長谷川さんは「日本では、このように当時の室内楽の演奏を彷彿(ほうふつ)させるセットのような場所で演奏できることはなかなかない。お客さんとも近い距離で温かな雰囲気で聴いてもらえた」と喜ぶ。
同建物は王子製紙社長、日本商工会議所会頭などを務めた足立正さんが1933(昭和8)年に別荘として建て、戦後は米軍に接収された。同日初めて訪れた正さんの孫、礼子さんは「同じ孫の一人がテレビでこの建物が残っていることを知り、連絡があった。大正生まれの父が大学受験の時にここで受験勉強をしたという話は聞いていたが、その後、こうして残っていることは誰も知らなかった」と話す。礼子さんの母方の祖父はギターやマンドリンの作曲家、武井守成さん。礼子さんは祖父から受け継いだ19世紀ギター・ラコートを持参した。
長谷川さんは礼子さんのギターを手にし、「足立さんの孫がまさか日本のギターの黎明(れいめい)期を支えたあの武井さんの孫とはすごいこと。写真で見たことのあるギターを演奏できるとは」と驚いた。礼子さんも「手入れはしていたが、音を出すことはなかった。ここで長谷川さんに弾いてもらえてうれしい。柴田さんたちが建物を受け継いでくれたことで、こうしてつながった」と笑顔を見せた。
柴田さんは「この音楽会を企画したことで足立家の方々が10人近く来てもらえた。この歴史ある建物に住むようになっていろいろな縁が広がっている」と話す。