「葉山芸術祭2019」が5月19日、「青空アート市」などの企画で最終日を迎える。
4月27日から始まった同芸術祭は、葉山町を中心に逗子市・横須賀市などの個人の自宅や店舗、神社や公園などを会場に、プロ、アマも芸術の分野も問わず、誰もが参加できる地域住民主体の芸術祭で、今年で27回目。3週間の期間中、110余りの企画が展開された。
今年初の試みとして、葉山で独自の活動を行う他団体と実行委員会とで行った共催企画が好評を博した。
5日は、町の住宅遺産の調査・研究を続けている「葉山環境文化デザイン集団」との共催で通常は非公開の個人宅など「近代住宅遺産」5棟をめぐるツアーが行われた。定員を超える申し込みがあり、約30人が参加。9割が町外からで、中には関西から参加した人もいた。
10時集合後、最初に訪れた「柳本邸」は1913(大正2)年、ダイヤモンド社を創設した石山賢吉さんが1934(昭和9)年に建てた洋風建築の別荘。スペイン瓦と暖炉の煙突、アーチ状の玄関ポーチなどが特徴。逗子駅まで歩くことのできる、葉山の中で一番逗子寄りの別荘になる。
2軒目の「旧足立別荘」の施主は王子製紙社長、日本商工会議所会頭だった足立正さん。1933(昭和8)年に建てられた北欧の木造建築の技法の1つハーフティンバースタイルの洋風別荘建築で、設計者は早稲田大学大隈記念講堂の設計でも知られる佐藤功一さん。建屋内外の建材には王子製紙で開発したチップを固めた植物繊維板を使うなどこだわりが光る。電話専用の小さな部屋や各部屋から使用人を呼ぶためのスイッチなど、当時の暮らしぶりがうかがえる設備も残っており、参加者たちは撮影にいとまがない様子だった。
そのほか、現在アーティスト夫妻が住んでいる「旧井上匡四郎邸」や日本画家、山口蓬春さんが購入した日本家屋「山口蓬春記念館」も訪問。井上匡四郎さんは帝国鉄道協会会長や鉄道大臣などを歴任し、技術院総裁を務めた人物。最後に、1928(昭和3)年竣工の「旧加地利夫邸」を見学した。施主は元三井物産重役の加地利夫さん。設計は建築家、遠藤新さん。
参加者は設計の巧みさはもちろん素材の良さ、テラスから海岸や富士山を望める眺望の良さなどにも感嘆の声を上げていた。ツアー後は、「葉山に初めて来たので、御用邸も見ていく」という参加者の姿もあった。
ツアー企画者で当日ガイドも務めた「葉山環境文化デザイン集団」メンバーの高田明子さんは「公開していただくために所有している皆さんはご苦労し、日頃から手入れをしてくださっている。とても大変なので公開はこれで最後というお宅もある。葉山の歴史を語る重要な建物なので、町の文化財として残せるよう尽力していきたい。このような機会に多くの人に知ってもらえたら」と話す。
葉山芸術祭実行委員会スタッフの一人は「実行委員だけではできない企画を地域の団体との協力でできたことは良かった。反響も大きかった」と手応えを感じた様子だった。
18日・19日には毎年人気の高い「青空アート市」が森山神社境内と一色会館で行われる。手作りのクラフト雑貨やアート作品の販売ブース、地元飲食店が参道や境内に出店を並べる。開催時間は10時~17時。