逗子在住のテーピングドレス作家・矢部基子さんが12月17日、日露合同製作映画「歳三の刀」で女優に着付けする機会を得るまでの話を交えての着付け技術を「紡氣」(逗子市逗子5)のフリースペースで披露した。
矢部さんは「夫を亡くし、気持ちが沈んでいる時に友人から譲られた着物で人形にドレスを着せ、プレゼントしたらとても喜ばれた。私もドレスを着せながら人形と会話することで心が明るくなった。心が前向きになり、サテンの布を体型に合わせてシニアの方に着せ、ウエディングドレスショーなどを地域で行うようになった」と振り返る。
ある日、着付けのワークショップで借りた部屋に針を1本置き忘れ、きつく注意を受けたことがきっかけで、ハリも糸もハサミも使わない独自の着付け方法を編み出した矢部さん。3年かかって特許申請が通った。「インドの民族衣装・サリーに近いと思われたが、私の着付けは体形に合わせ、ドレープ(=ゆったりとしたひだ)ができるのが特徴」と説明する。
着付け体験で、ドレスを身に着けた女性は「ステージで歌う機会が多いので関心があった。その際に着るドレスより、胸元がぴったりしているのに締め付け感もなく、1枚の布で自由にアレンジできて想像以上」と喜んでいた。
矢部さんの着付け技術は、来年公開予定の映画「歳三の刀」(製作企画=ユーラシア国際映画祭)の1シーンに採用されている。
同映画は、土方歳三が函館からロシアのウラジオストクへ渡り、ロシアで活躍したという歴史ファンタジー。矢部さんは、福島県・会津若松のロケ地までサテン地と着物、扇を持参し、白馬にまたがる女優に着付けをした。
矢部さんは「友人が開催した都内のギャラリー展に出品していたドレス作品を監督が偶然見て、3日後のロケに来てほしいと頼まれた。どんな女優がどんなシーンで着るのかもわからず、現地に行って初めて大柄な女優さんだと知った。しかも馬に乗るというので、着崩れないか、撮影中、祈る思いだった」と話す。
矢部さんは「あまり行きたくなかった短大の家政学部で教えてもらった和裁や洋裁の技術が70歳を過ぎて役に立つとは思わなかった。このオリジナル技術を若い人に引き継いでもらって、一緒にパリコレクションに行くのが今の夢」とほほ笑む。