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逗子の小坪から新嘗祭に献上されてきたミル、今年は台風で地元「無念」

今年8月2日には相模湾海藻調査会のメンバーが鎌倉市七里ガ浜で大量発生したミルを確認(提供=高橋昭善さん)

今年8月2日には相模湾海藻調査会のメンバーが鎌倉市七里ガ浜で大量発生したミルを確認(提供=高橋昭善さん)

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 逗子の小坪漁港では毎年、新嘗(にいなめ)祭に海藻、ミルを献上してきたが、今年は台風の影響でミルがなくなり、採取できなかった。

献上するミルを採取する時は、白装束を着用する小坪の漁師(提供=高橋昭善さん)

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 漁港関係者によると、「毎年11月23日に行われる新嘗祭だが、今年は即位後初めて行う大嘗祭(だいじょうさい)ということで、日程も14日になり、12日には県庁の職員が小坪に取りに来る予定だった。ところが先月の2回の大きな台風の影響で、根こそぎどこかへ持ってかれてしまったようだ」と言う。

 ミルは漢字で「海松」と書き、「万葉集」にも登場。平安時代の装束には「海松文」というミルをデザインした文様が使われ、「日本伝統色色名事典」によると「平安時代から明治初期まで海松色という色名が使われていた」とある。

 相模湾海藻調査会の主宰で、約50年、海藻の研究を続けている小坪在住の高橋昭善さんは「ミルは静岡でも千葉でも生息する海藻なのに、なぜ小坪の漁師が引き受けたのか、どうして献上品の中にミルがあるのかなど数年調べている。1942(昭和17)年には宮内庁から神奈川県へ、そして葉山の漁師から逗子へお役が回ってきたようだがまだ詳しいことは分からない」と話す。

 逗子市の資料には「鎌倉幕府の時代から隣接した鎌倉へ魚介類を供給するために伊勢の商人と志摩の海女が移住して来た」とある。「小坪には『伊勢町』という地名も残り、伊勢神宮由来の行事も伝わっている。私見だが、そういう関係で小坪のミルが選ばれたのかとも思う」と高橋さん。

 海辺の調査は高橋さんの日課だが、特に新嘗祭が近づいてからはほぼ毎日、小坪の海へ行き、漁港関係者と話をしている。「今年、記念すべき大嘗祭に献上できず、本当に残念。胞子が残っていれば、来年は献上できるかもしれないが、こればかりは自然が営むことなので分からない。別の海から胞子を持って来て育てたらいいのではと言う人もいるが、それはやらない方がいい、同じ種でも育つ地域にあった生育をする。またここ小坪で生まれ育ってほしい」と期待する。

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