2014(平成26)年から開催してきた逗子アートフェスティバル(以下、ZAF)が今年、3年に1度のトリエンナーレの年を迎え10月7日から始まります。
2017(平成29)年にボランティアとして関わり、2019年から広報として、2022年からは共同代表も兼任しているアーティスト、たかけろおねえさんに今年のZAFの見どころと自身の作品について聞きました。
―― 2019年に取材でお会いして以来、毎年コツコツと関わりを広げてきているようですが。
たかけろ そうですね。2017年に逗子市の広報でZAF市民募集の案内を見て、自分の活動を地元の人に知ってもらいたいと思っていたタイミングだったので応募したのが始まり。翌年、ボランティアリーダーとして取りまとめ役をやり、2019年からは広報を担当しながらいろいろな人と出会い、関係を積み上げてきて、今年、やりたかったことがZAFを通してかなったという感じがしています。
―― 今回、華道の師範でもあるたかけろさんの作品は生花と造花を使ったインスタレーション作品ですが、そもそも華道との出合いはどのようなことだったのでしょう。
たかけろ 通っていた聖和幼稚園で茶道を知り、小学生の頃は葉山まで習いに行っていました。お茶をやっているならお花もということで始めました。高校を卒業して進路を決めなきゃいけない時にお花の学校を見つけて…。
―― 茶道からの華道だったのですね。
たかけろ お花屋さんで働ければいいかなくらいだったんですが、学校の華道の先生が「10年に1人くらいの逸材だからか続けた方がいい」と言っていると他の先生たちから聞き、卒業しても、その道を極めてみようと思いました。
―― 三浦半島全域を紹介するライバー(アプリを使ってネットライブを配信する人)もしていましたよね。
たかけろ 曽祖父母も高祖母も逗子にいたので、祖母が戦後すぐに逗子に越してきました。自分は逗子生まれ逗子育ちなのに、発信しなければ「あなた誰?」で終わっちゃうな、地元の人に知ってもらいたいなと思っていた時に、ライバーとかインフルエンサーを抱える芸能事務所に声をかけてもらって入り、タレントしても活動を始めたんです。
―― たかけろおねえさんとして活動を始めるのですね。
たかけろ そう、この個性で、生け花とか日本の文化を伝えるという人はいないだろうって思って。そしたら、ちょうどそのタイミング、2017年21歳の時にZAFとも出合うんです。
―― なるほど。そこから地域とつながっていくのですね。
ZAFで知る地域とのつながりの大切さ
―― ZAFの広報としてだけではなく、自分自身の広報も兼ねて発信していると思うのですが、どうですか。
たかけろ そうですね。発信するにはやっぱりネタがないといけないじゃないですか。お花だけでなく、そこに三浦半島という広域な情報源があって、いろいろな人を巻き込んで、ちょっとしたことでも発信しています。ZAFの活動もその一つです。地元の人に知ってもらうことが大切です。―― 今年のZAFの特徴を教えてください。
たかけろ 今年は自分の中でやりたかったことのほぼ完成に近い状態です。それは何が一番かというと、約40の企画のうち8割、9割が市民が企画したクオリティーの高いアート作品だという点です。今年はトリエンナーレだということで予算的にも文化庁の助成金が頂けたので、生かせたと思います。
―― 前回のトリエンナーレはコロナ禍でしたね。
たかけろ オンライン企画が主で、人を集めるようなことができなかったんですよね。企画数も10くらいでした。ただ、やらなかったよりもやったことに実績があるので、それは今年につながったかなと思います。
―― 2017年までは逗子市の予算も確保され、「ナイトウェーブ」や「池子の森の音楽祭」などいろいろな企画が誕生しました。その後は予算がなくなって市民有志が手作りしてきました。今年はコロナの規制もなくなり、ぐんと勢いがあるように思えます。
たかけろ 今年は学生への声かけも強化しました。
―― 官学連携ですね。
たかけろ 横浜市立大学公認団体の「三浦半島研究会」や逗子開成学園の写真部、逗子葉山高校の写真部や美術部、聖和学院の美術部も協力してもらっています。次の世代につなぐためには学生との連携が必要だと思っています。必ず毎年同じアーティストが作品を出すわけじゃないので、後継者がいないと続かないんですよね。まずは入り口として企画を出してもらったり、ボランティアに参加してもらったりするところから今年は予算も取って強化してきました。
―― SNSで発信してくれる世代だったりもしますね。
たかけろ そう、その子たちを巻き込まないと「やっていたの?」ということになって、後に続かなくなるのが怖いです。
アートで再生
たかけろ あと今年の大きな特徴は場所です。普段あまり使われていない建物や使われなくなった建物を、アートを通して復活させていく、アートのコミュニティーを使って人をつなげていくということですね。
私が使わせてもらう市の施設「蘆花記念公園 第二休憩所」もほとんど借りる人がいなくて使われていません。京急逗子・葉山駅南口前の「逗子医療センター」も病院や薬局が越して、空き家になっています。旧逗子高校も廃校になっていますが、教育施設なので学生を巻き込んだ企画にして再生しています。
―― それはすごく面白い展開ですね。ZAFを終えても次につながっていく機会になりそうです。
逗子と文学と花
―― たかけろおねえさんの展示の一番の思いはどのようなことですか。
たかけろ そもそも縁側を使いたいという企画を考えて場所を探しました。脇村邸や旧郷土資料館も候補に挙げたのですが貸してもらえず、この場所を見に来た時に縁側だけじゃなく、建物全部を使って作品にしようと思い、花を生けるだけではなく、インスタレーションにしたんです。
いろいろ調べていくと、この蘆花公園と徳富蘆花さんとのゆかり、「不如帰」と逗子とのゆかりなどから逗子ってすごく文学と縁が深くて、花とも相性が良いということに気づいて、自分の一つの作品として今年から取り組めると思えたのです。
―― 逗子は芥川賞や直木賞作家とも縁が深く、作家が暮らしていた息遣いがある町です。それを表現してもらえると思うと楽しみです。
たかけろ 生まれ育った逗子で自分の作品を出すにはぴったりなテーマだなと思ったんですよね。さらに、聞いていると、この施設はあまり使われていないし、市民も知らない人が多いみたいなので、ZAFが来るきっかけ、知るきかっけになればと思っています。
―― そういう思いもあって掃除からワークショップにして市民を巻き込んでいるんですね。
たかけろ これまでのZAFで学んだんですよ。自分の作品だけに投資するのではなく、地域の人を巻き込んで知ってもらわないと意味がないことを。
―― なるほど、そういう取り組む姿勢もZAFを通して学んだんですね。
たかけろ 活動を始めて7年間の集大成ですね。
―― インフルエンサーでもあるから、別に直接人と対面して伝えていかなくても発信していると思いますが、やっぱり直接触れ合うことの意味を感じているのですね。
―― 作品そのものの見どころは文学と花になりますかね。
たかけろ 本を読んだり、逗子の中で関係している場所に行ったりして徳富蘆花さんと「不如帰」と逗子のつながりを深堀すればするほど面白くて、逗子の皆さんがどれだけそのことを知っているんだろうと思っています。どうして伊香保が姉妹都市なのかも知っているかなぁ。
―― どうでしょうね。何かきっかけがなければ意味までは考えないかもしれません。
たかけろ この建物は耐震の関係もあって一度に10人ほどしか入れないのですが、その分、一人一人がこの空間の中で自分なりの感じ方で見てもらえると思っています。キャプションはそれぞれに付けますが、花を見てそれをどう感じてもらえるかは楽しみです。自分の思いとマッチングしているか一人一人聞いてみたいと思ったりします。
―― 逗子のことを知ってもらうすてきな機会になりますね
たかけろ 移住者も多い中で、このことは伝えていかなきゃいけないことだし、伝統文化も伝えていきたい。つながればつながるほど、ちょっと心の中でワクワクしてくるというか。それをお客さんたちはどこまで気づいてくれるかな。
―― 今年、泉鏡花生誕150年だったりするし、ここで文学に触れてその足で逗子の史跡を回ってもらいたいですね。
たかけろ 今、忘れてはいけない逗子の歴史や伝統文化を伝える業種の人は、インフルエンサーもそうだけれど、発信していかないといけないと思っています。
―― 作品、楽しみにしています。
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たかけろおねえさんの展示作品「貴花路(グウエィファールー)」
開催日時は10月7日8日13日~15日、11時~16時。無料。
◇たかけろおねえさんのX(旧Twitter)
(10) たかけろ/おねえさん@10月インスタレーション逗子(@toitakakero)さん / X (twitter.com)
◇逗子アートフェスティバル https://www.zushi-art.com/
◇逗子アートフェスティバルの変遷https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shiminkatsudo/event/1007367/1004482/1004486.html?ref=zushi-art.com
◇たかけろおねえさんの過去記事
http://ttps://zushi-hayama.keizai.biz/headline/235/