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葉山が人格形成や感性に大きな影響を与えているという音楽家・小林洋平さん。今夏、終戦番組にかける思いとは(後編)

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 音楽に造詣の深い父とピアノ教師の母に葉山で育てられた音楽家、小林洋平さん。東京理科大学・宇宙物理学研究室を経て、同大学院時代に奨学金を得てバークリー音楽大学映画音楽科へ留学。映画音楽やサックスを学び、首席で卒業。帰国後、テレビ番組やラジオドラマ、映画音楽の仕事に携わっている。
 後編は、8月13日放送予定の終戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』への思い、葉山への思いを聞く。

(カフェテーロ葉山で)

―― 今度の終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」もそうですが、重いテーマの作品に数多く携わってきている印象があります。何か特に思いがあるのですか。

小林 特に意図しているわけではありませんが、社会問題にも一人の人間として数多く関わってきたという気持ちはあります。地雷除去の支援のコンサートを開くときは実際に地雷原に足を踏み入れましたし、東日本大震災の被災地にも何度も足を運び、今でも大切なご縁が続いています。大磯のエリザベスサンダースホームでのチャリティーコンサートをはじめ、子どもたちへの虐待の問題にも長く関わってきました。そうした経験をしていく中で、難しいテーマに向き合うための引き出しが培われてきたのかもしれません。

―― そこに心が向くきっかけがあったのでしょうか

小林 留学するずっと前の話ですが、葉山で30年ぐらいコーラスを続けているグループの伴奏を母がやっていて慰問演奏に時々僕も付いて行っていたんです。ある時、循環器系の入院患者さんがベッドに寝たまま聴きにきてくださって、童謡など演奏するとボロボロ泣いていらっしゃっいました。後から看護師さんに「音楽を聴いている間は自分が病気だということを忘れられた」と言われたそうです。その時にもちろん音楽は仕事なんだけど、この気持ちは決して忘れないようにしないといけないなと思ったことが原点なんです。そう思っていることで、アンテナがそういう向きに張れているのかもしれません。

―― そういう経験をされていたんですね。今回は終戦ドラマ、それも大戦末期のいわゆる「生体解剖事件」という出来事がモデルということですが。

小林 実は同じ話を数年前にNHKさんのラジオドラマでやらせていただいています。なので僕自身、数年前から向き合ってきた物語です。綿密な取材に基づいていて、絶対に後世に語り継いでいかないといけないストーリーだという思いが強い作品です。戦争というのは、こんなにも人の心を狂わしてしまう。そして通常の思考では考えられない異常なことが起きてしまう。主演のお二人も、筆舌に尽くし難い演技をされています。キャスト、スタッフが本当に心を一つにして作品創りに没頭できたのではないかと思います。古川健さんの脚本も素晴らしいです。

―― ドラマの中で特にここ、というシーンはありますか

小林 ドラマの中で、実験手術で捕虜の命が奪われてしまいます。災害とかもそうですが、みんな数で悲劇の尺度をはかろうとする。何十万人が死にました、とかね。でもそれって本当はみんな1+1+1+1…のはずなんです。後の世に生まれた僕らがそこにちゃんと丁寧に光を当てていかない限り、本当の悲惨さなんて語れないと思っています。

―― そういう思いの中で番組に携わるわけですが、音楽にはどのようにその気持ちを込めたのでしょう

小林 今回大切にしたいと思ったのは、物語が終わったとき、そこに残るのが悲壮な感情や反省だけではなくて、真実を見つめる話の先に何があるかを、ちゃんと一人一人に考えてもらえるかどうか、ということです。主人公太一が、最初は上司の命令で自分の力ではどうしようもなかったと思っていたけれど、獄中で出会う人たちと言葉を重ねて、自己と深く対話していく中で自分には大きな罪があったことに気付いていく。戦争中にこういう恐ろしい出来事があって、これからこんなことが繰り返されないように過去から学んでくださいって…もちろんそこは何よりも大切なのだけれど、ただそれだけで捉えて欲しくはないんです。どんな悲劇もちゃんと未来につなげていけるのが人間だから、壮絶な悲しみを乗り越えたところに、かすかに開けた未来が確かにある…そこに思いを込めたいと曲を書きました。

―― すごく難しい仕事ですね。

小林 いろいろな作品・物語に携わってきましたが、今回は本当に難しかったです。

(2021年7月20日NHK CR-506で 提供=FAIR WIND music)

―― 録音やトラックダウンに立ち会われて、どうでしたか。

小林 いつもお世話になっている、業界を代表するスタジオミュージシャンの方々との録音でしたが、物語も詳しく話し、時には映像やせりふも確認してもらったりしながら収録ができました。そのおかげで本当に皆さん素晴らしい演奏をしてくださり、思いが深く伝わる音楽に仕上げることができたかなと思っています。エンジニアさんたちもとても力を入れて、録音とトラックダウンに望んでくださいました。

―― 今、同時進行で進んでいる映画やドラマも楽しみですが、まずは8月13日の終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」を拝見したいと思います。

(2021年7月20日NHK CR-506で 提供=FAIR WIND music)


「葉山で育ち、暮らして」

―― 最後に何か葉山に込める思いなどお聞きしたいと思います。

小林  自分の人格形成とか感性は、間違いなくここ葉山で育ち、時間を過ごしてきたことに影響を受けていると思っています。海も素晴らしいけど、僕は山側も好きで、森戸川の上流も昔からよく行っています。今でも曲をかいていて行き詰ってしまうと足を運びますよ。棚田にホタルを見に行ったり…。そういう町の環境全体が育ててくれたんじゃないかな。葉山の存在は僕にとってとても大きいです。

―― 曲作りにもいい環境ということなんですね。

小林 東京で今新しく生まれているものを作っているので、先端の感性もきちんと持って、磨いていたいんですね。だから里山すぎてもダメなんです。ここは東京から近いということもあるのか、都会的な洗練された感覚もお持ちで、この町が好きで住んでらっしゃる人が多い…何かそういう雰囲気に助けられているっていう気がします。

―― アーティストもたくさん住んでいらっしゃいますしね。もっと地元でも作品に触れることができるといいなと思うのですが…。

小林 皆さん、ここは帰って羽を休める場所であって、活動する場所じゃないっていう感覚があるのかもしれません。僕も昨年、町のPVを作ろうと誘われるまではそうでした。でも、地元では活動されていないけれど、その世界では第一戦で活躍されているアーティストの皆さんがたくさんいらっしゃるのだし、そういう方たちと一緒にイベントなどができたら、とてつもないものを作れるんじゃないかなって気もしています。

―― 今後ますますの活躍を楽しみにしています。

小林洋平さん ホームページ http://fair-wind.jp/

8月13日放送予定の終戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』https://www.nhk.jp/p/ts/77NKRR6Y1J/


 

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