宇宙での被ばくと自己回復のイメージ
次世代太陽電池で世界に挑戦しているスタートアップ、株式会社PXP(本社:神奈川県相模原市)は、この度、自己回復強化型のカルコパイライト太陽電池を開発し、宇宙における強い放射線環境に極めて強い耐性を示すことを、IEEE 太陽光発電専門家会議にて発表しました。
これまで、カルコパイライト太陽電池が強い放射線耐性を有することは知られており、例えば放射線の一種である電子線を、宇宙環境で約100年分に相当する量被ばくしても劣化しないことが報告されておりました。最近の研究で、カルコパイライト太陽電池は被ばくによるダメージを熱と光によって自己回復することが報告されており、これが強い放射線耐性の所以と考えられています。しかしながら、電子線よりもさらにダメージの大きい陽子線を大量に被ばくした場合は、自己回復が追い付かず、劣化が発生しておりました。
PXPでは自己回復強化型のカルコパイライト太陽電池を開発しており、宇宙の静止軌道上の環境では約100年相当の、低軌道上の環境では約400年相当の陽子線に被ばくした場合でも、熱と光による自己回復により、性能維持率100%まで回復することを、2023年6月にプエルトリコで開催された第50回IEEE 太陽光発電専門家会議で報告しました。しかしながら、実際に太陽電池が運用される比較的低い温度や、別の太陽電池を積層しタンデム化した場合にトップセルを透過した弱い光でも、同様の自己回復効果が誘発されるか確認が必要でした。そこで、本年6月に米国シアトルで開催された第52回IEEE 太陽光発電専門家会議では、実際に太陽電池が運用される温度でも、またタンデム化した場合でも、自己回復効果が十分誘発されることを報告しました。
陽子線被ばく量と自己回復強化型太陽電池の性能維持率
PXPの開発ロードマップ
最高技術責任者:杉本広紀は以下の通り話しています。
「我々のGen1技術である自己回復強化型のカルコパイライト太陽電池は、超軽量で長寿命、低コストのため、宇宙での長期間のミッションに貢献し得る技術と考えています。しかしながら、宇宙用の太陽電池としては光電変換効率が十分でないため、将来的にはタンデム化による高効率化が必須と考えています。幸いなことに、我々がGen2技術として開発しているタンデム太陽電池のペロブスカイトトップセルも、最近の研究で非常に高い放射線耐性を有することが明らかとなりつつあります。現状では、まだペロブスカイトは熱や光に対する耐久性の課題をクリアする必要がありますが、将来的には超長期の運用が必要とされる宇宙太陽光発電システムに不可欠な技術となり得ると期待しています。」
【株式会社PXPについて】
ソーラーパネルのデバイス研究と量産技術開発の豊富な経験を持つ技術者が集まり、2020年に相模原市に設立したグリーンテック開発のスタートアップです。
クリーンなエネルギーをいつでも どこでも だれでも自由に使える世界を目指して、世界初の方法でペロブスカイト/カルコパイライトのタンデム構造を用いた、軽くて曲がる、割れないソーラーパネルや全固体電池一体型ソーラーパネルの研究開発を行っており、2024年より量産技術パイロットラインが稼働しました。
※用語解説
タンデム太陽電池:
分光感度の異なる複数の太陽電池を重ねて用いることで、幅広い波長の光を無駄なく電気に変換する太陽電池。当社は紫外光から赤い光で良く発電するペロブスカイト太陽電池と、赤い光から赤外光で良く発電するカルコパイライト太陽電池を重ねて用いています。
全固体電池:
電解質に固体材料を用いた蓄電池。耐熱性が高く安全性が高い。
株式会社PXP
設立 2020年7月
代表 栗谷川 悟
本社 神奈川県相模原市緑区
HP https://pxpco.jp/
SNS https://twitter.com/pxp_en