
葉山の山口蓬春記念館(葉山町一色)で現在、秋季特別展「中村岳陵と山口蓬春ー逗子と葉山の二人ー」が開催されている。
(正面)中村岳陵の代表作「砂浜」や(右奥)前期のみ展示となる「白狗(びゃっこ)」(横須賀美術館所蔵)などが鑑賞できる展示室
一色海岸北の丘陵に位置する同館は、建築家・吉田五十八の見立てにより日本画家・山口蓬春が1948(昭和23)年に購入し、2022年には国有形文化財に登録された。1990(平成2)年、山口家より土地、建物、所蔵作品の寄贈を受けたJR東海生涯学習財団(現・公益財団法人「JR東海生涯学習財団」)が季節ごとにテーマを変えて展覧会を開いている。
地域に目を向けた展示会企画という観点から、今回、逗子で暮らし、深く交流のあった日本画家・中村岳陵を取り上げた。2人は1930(昭和5)年、日本画家の福田平八郎、洋画家の木村荘八、牧野虎雄、美術評論家の外狩素心庵、横川毅一郎らと結成した団体「六潮(りくちょう)会」で出会った。熱海の宿に泊まった時のスナップ写真なども展示している。
岳陵は長男・秀男の転地療養で逗子を訪れ、1932(昭和7)年、都内から逗子に移住。今回展示している「砂浜」(横浜美術館蔵)、記念切手の原画にもなった「気球揚がる 下図」(神奈川県立近代美術館蔵)、横須賀・荒崎に通って描いたという「濤(とう)」(横須賀美術館蔵)など逗子移住後の作品。
本人が逗子で飼った秋田犬をモデルにした「白狗(びゃっこ)」(横須賀美術館所蔵)はローマでも展示された岳陵の代表作。毛並み一本一本まで綿密に描いた筆の運びを間近で鑑賞することができる(前期10月26日まで)。
同作品に替わって後期に展示する蓬春のびょうぶ絵「梅花紅葉(ばいかこうよう)」(1934年、青々会第3回展)の「紅葉」は初公開となる。
学芸員の笠理砂さんは「偶然にも蓬春の妻の名前は春子さん、岳陵の妻の名前は晴子さんと同じはるこさん。家を訪ね家族ぐるみで親交があったことが読み取れる手紙なども残っている。岳陵が亡くなった際に蓬春が書いた弔辞もあり、2人の付き合いが深かったことが分かる」と説明。
加藤泰也館長も「二人展にしたことで2人の絆や作品の変化なども感じてもらえる。文化勲章を受章するなど日本画壇に功績を残した2人のことを地元の皆さんに知っていただければ」と話す。
11月3日には2人と直接親交のあった美術史家・河合正朝さんの講演会が行われる。13時30分~15時。参加費1,000円(入館料含む)。先着20人。10月24日、11月7日・16日の13時30分~14時は、学芸員が展示解説を行う。先着10人。
開館時間は10時~16時30分。月曜休館(祝日の場合は翌火曜休館)。入館料600円(高校生以下無料)。